令和3年度 盟友の主張

『働きやすい農業を目指して』

玉名支部代表 西村 健太

農業を始めて3年目です。建設関係の会社で働いていましたが、結婚後に、妻の父、母の農業に転職し、事業継承させてもらいました。農地、農機具、園芸施設、無いものを考える事が難しいくらい、恵まれた環境で農業を始めました。アスパラガス15a,トマト26aの施設園芸、水田では、8haの面積に、麦、米、大豆を栽培しています。今のところ、順調だと思います。私が、初心者なだけで、父、母は、大ベテランで、周りの農家さんも、先生ばかりです。トマト栽培の検討会では、他の生産者のハウスを見学し、質問など、意見交換を行います。近所の農家さんも、いつもハウスにきてくれて、樹の状態を、「弱ったな」とか「今は良いぞ」とか教えてくれます。病気かなと思えば、指導員の方に、写真をラインで送ると、現場まで来てくれて指導してくれます。基本的な、栽培方法、農機具の使い方は、父、母が教えてくれます。これで、出来るようにならなかったら、私が悪いのだろうなと思えるほど、生産者、JA,家族に支えられて農業を行えています。

仕事は、妻と妻の父、母、それと妻の妹が手伝ってくれての、5名で行っています。父、母は70歳を超えていますが、収穫、除草、耕うん、田植えなど、まだまだ、なんでもやる現役そのものです。周りを見るともっと年配の人が、トラクターに乗ったり、ハウスの中で仕事をしています。大分県にいる私の父、母もほぼ同世代ですが、とても同じことはできません。農業のかたの強さには驚きです。肥料は重くて、夏のハウスは過酷な暑さ、アスパラガスの収穫は、腰に負担がかかり、トマトのコンテナも結構重い、機械化されてきた農業ですが、重労働な部分もかなりあります。まだ、先の話でもありますが、今まで通り、父、母に頼っていくのではなく、少しずつ楽をしていってもらいたいと思っています。かといって、私たちだけでこなしていける仕事量ではないので、将来的には従業員を雇えるような経営を、考えたいと思います。

絵に描いた餅のように、話していますが、簡単にはいかないだろうとは、分かっています。農業は「食」や「地域」を支える重要な仕事として世の中に必要とされていますが、後継者不足、高齢化問題などをかかえています。基幹的農業従事者は平成27年の175万人から令和2年では136万人となり、平均年齢67.8歳となり深刻な状況といえます。私が農業をしている玉名でも、農業の高齢化は感じますし、おそらくもっと深刻な問題をかかえている地域もあるはずです。農業をしたいという人が、少ないという問題。雇いたくても雇えないという問題も、あるのでしょう。私のところも、簡単に従業員を雇えるような、状態ではありません。なかなか厳しい道のりだと思っていたころ、家族農業の重要性を説く本を読みました。それによると、国連が、2019年から28年までの10年間を「家族農業の10年」とする事とした。家族農業が、飢餓と貧困をなくし、環境と生物多様性を保全するうえで重要な役割をはたしていく事を強調し、世界の食料生産の80%以上担う家族農業の重要性や役割に光をあてています。さらに家族農業は、「持続可能な開発目標」についても関係が大きいこと。SDGSの、1つ目と2つ目は、貧困と飢餓をなくす事を目指します。私たちが、食と地域、環境を大切にする農業を行う事が、17の目標のほぼ全てに、係ってくる。また、昨今のコロナ禍における情勢についても、日本の農業や、地方活性の重要性を示していました。

単純に、世界の食料生産の80%を家族農業が担っている事には、驚きました。大規模農業も、勿論重要ですが、私が始めた家族農業も、安心、安全な食を提供し、地域を支えていくためにも、重要なものでした。私の代で終わる農業ではなく、次の世代に引き継げる為に、安心して働ける農業にする為に、できる事から始めようと思います。私は、経験もまだまだですし、そもそも、勉強中です。私自身が、人に教えていけるように、勉強する事と、ここで働いてもいいかなと思ってもらえる職場にする事です。

職場作りの1つとして、販売や経費の収支管理表を作りました。経営の見える化です。主に5品目ある作物のそれぞれの売上や経費、作業割合から見る、労務費や機械費用から収益性の高い、低いなど見えるようにしました。販売価格や資材費等が高騰する問題もあるので、計画通りとはいきませんが、年間計画や5年計画の資金繰りなども見えるようにしました。そこで見えてきたことは、現状の栽培作物、面積を変える事なく、管理にもう少し、手間と工夫をかける事で、反収を少しあげる。それで、大丈夫。これも、農地や、農業機械があるから言える事です。父、母に感謝です。栽培技術、経験がまだまだなので、大事なところがぼんやりしていますが、計画通りにいけば、儲かる農業に近づいて、中身、将来性が見える事で働きたいと、手をあげてくれる人がいたら良いなと思っています。第3者継承を前提に考えているというわけではありません。私の子供が継ぎたいと言った時も、経営状況と、将来性を見て、そう思ってもらいたいです。 また、事業の経営状態や、作物毎の売上、支出、JA、消費者からの要望などを、共有できる状態を作っておく事が、仕事をするうえで、良い面が生まれるのではないでしょうか。

人と仕事の話で、昔の童話に3人のレンガ職人という話があります。 中世のヨーロッパを旅する旅人が、3人のレンガ職人に出会います。1人目のレンガ職人に「何をしているのですか」と聞くと、「親方の命令でレンガを積んでいるんだよ」と面倒くさそうに答え、2人目は「レンガを積んで壁を作っているんだ、大変だが賃金がいいからやっているんだ」と答えました、3人目は「完成までに100年以上かかる協会の、大聖堂を作っているんだ。完成すれば、多くの信者の拠り所になるだろう。こんな仕事につけて、本当に光栄だよ」

農業で例えると、生産の目的、消費者の要求、売上や生産量の成果、手をかける意味などを、職場内で共有し、新しい役割を積極的に与えた結果、3人目のレンガ職人のように、目的や使命感を持った姿勢を導きだせるのでしょう。考えて仕事をしているので、手順が良くないと思えば修正もできるし、意見もでるでしょう。要点が理解できるようになるので、手抜きもできると思います。その仕事は、生産性を上げ、事業に利益をもたらします。生み出された利益は、従業員に給与や、賞与などの形で還元する。こんなサイクルを作る事で、働きやすく、働き甲斐のある農業にできたらと思っています。

もう1つ、頑張って仕事をして、色んな機械を扱うほど、農業は事故の危険度が、高くなります。若い従業員が、稲刈りが覚えたいといえば、多少下手でも、どんどんさせていきたいです。しかし、コンバインは、回転部に巻き込まれたりや、後方が見えづらいので、重大事故につながる要素が満載です。農作業中の死亡事故の割合を、従事者10万人当りで見たときに建設業の2倍ほどあり、あらゆる業種の中でワーストワンです。私は、以前は建設業で働いていました。建設業では、「安全の見える化」というものがありました。農作業の機械や、施設の危険な場所に、「巻き込まれ注意」などを、見えるように書いたり貼ったりするようなものです。機械にもともと書いてあるものもありますが、見えづらくなっていたりしますし、言葉で伝えるだけでは、忘れがちになるので、見えるようにしています。事故につながらないように、危険を見える化して、安全に仕事ができる設備も取り入れていきます。万が一事故が起きてしまった時の為に、労災保険等の制度の導入も検討したい。これも、安心して働ける労働環境だと思います。

私は、農業の仕事に就いて良かったと思っています。外仕事に慣れていたので、その抵抗は全くありませんでした。朝早くから働けば、夕方に早く仕事をやめても、その日の必要な仕事は、完了できる事もあります。学校から帰ってきた子供と遊ぶ事もできるようになりました。

農業は大変な仕事ですが、ほとんどの仕事はそうです。農業に、興味が無い人、外での仕事に不向きな人には、できない仕事だとは思います。しかし、農業に興味がある人達がいるのに選ばれない農業には、したくはありません。農業は、他の就職と少し違うイメージが世間にはあると思います。私もそう思っていました。私の育った地域では、専業農家というところは、ほとんどなかったと思います。農業は、兼業でするものという感覚もありました。就農という言葉も、農業に対する警戒心を与えているように思います。興味があれば、ひとつの選択肢になるような、選ばれる職業を目指します。農協の仕事と、農業が同じとは言いませんが、就職先を決める時に、農協か農業を目指そうかな、と、極端に言うとこんな感じです。

そうなる為には、農協、生産部会、各生産者の連携が不可欠です。食や農に係る体験や教育、私も非常に助かっている農業の指導や部会での交流、農産物の品質の向上、販売促進など。農業というものが、多くの人にとって持続可能なものになる事、色んな形でかかわれるものになる事。私は、将来に不安を感じずに働ける職場、社会保障が充実し、休日が確保できる人員のある職場、選ばれる職業として、次の世代に引き継ぐ事を、かけだしの私には、気が早い話ですが、少しずつ実現に向けて進んでいきます。